Rut Bryk Kuusi
¥2,500,000
Rut Bryk(ルート・ブリュック)の「鋳込み成型(スリップ・キャスティング)」という技法を用いた陶板作品です。
夏の記憶に、冬の夢を重ねて
ルート・ブリュックにとって、カレリア地方は創作の源泉でした。幼い頃、家族と過ごした夏の日々。素朴な建物、正教会の荘厳な佇まい、深い森に生える”Kuusi(トウヒの木)”──その風景は後に、数々の陶板作品として生まれ変わっていきます。
フクロウがとまる木、小鳥がさえずる木。様々な表情を見せるトウヒのシリーズの中で、この作品はひときわ温かな輝きを放っています。たくさんのオーナメントで飾られたクリスマスツリー。星、ハート、人形、花──そして木の幹には”Rut”と”Tapio”、自分と愛する夫の名前が刻まれています。
けれど、ここには小さな秘密があります。ルートがカレリア地方を訪れたのは、いつも夏だけだったのです。
叶わなかった冬の情景
夏の光に満ちたカレリアの森。そこで冬を迎え、雪に包まれた木々の間で、大切な人とクリスマスを祝う──。この作品には、そんな「もしも」の物語が込められているのかもしれません。現実には体験できなかった情景を、ルートは陶板の上に描き出したのです。
娘のマーリア・ヴィルカラは、母についてこう語っています。「母はすてきな物語をたくさん聞かせてくれた。彼女が語ると、どんな些細な出来事であれ、そのニュアンス、色、音、匂い、すべてが、いきいきと立ちあらわれてくるのだった(彼女はきっとよい文筆家にもなったと思う)」。
幸せに溢れたクリスマスツリーの輝き。それは、記憶と想像が溶け合った、ルート・ブリュックだけの物語なのです。
ルートはそれぞれの作品に異なる釉薬や文様を施し、一つとして同じ作品を作らなかったため、こちらも唯一のものとなります。
1952
55×18.5×2 (cm)
『ルート・ブリュック 蝶の軌跡』 P103
『Rut Bryk』Espoo Museum of Modern Art P17
※部屋に飾られている写真は、実際の作品写真をもとに生成AIで作成した展示イメージです。作品そのものの形状・質感・状態は、商品写真をご確認ください。
在庫1個
Rut Bryk(1916-1999)
ヘルシンキの中央芸術工芸学校で学んだ後、1940年代初頭からアラビア社アート部門で活動を始めました。版画の技法を応用した型の研究と釉薬による独自表現を確立し、1951年のミラノ・トリエンナーレでグランプリを受賞。国際的な注目を浴び、フィンランドを代表する陶芸作家のひとりとして知られるようになります。初期の具象的な陶板から、1960年代には無数のタイルを組み合わせた抽象的・立体的なモザイクへと移行。ヘルシンキ市庁舎やフィンランド銀行、大統領私邸に設置された大作は、迫力あるスケールと色彩表現で高い評価を得ました。版画の鋭い構成力や釉薬の奥行きを活かす作風は、北欧デザインに新風を吹き込み、陶芸の可能性を広げる礎となっています。









