"フィンランド陶芸 芸術家たちのユートピア"

この展示会で日本各地の美術館を回ったミハエル・シルキンの猫の彫像。その後はフィンランドのTurku Art Museum,EMMAの”ミハエル・シルキン展”でもメインの作品として展示され、高い人気を博しました。本作品はその別ヴァージョンです。

フィンランドの陶芸家の中で最も人気の高い彼ですが、アラビアの芸術部門でアート作品しか手掛けなかったため、そもそもの数が少なく、また、当時から多くの美術館が積極的に買い入れて展示を行っていたため、傑作のほとんどは美術館でしか見ることが出来なくなっています。個人のコレクションとして持てる機会はまずない作品です。

ミハエル・シルキン (1900-1962)

フィンランドのARABIAアート部門で活躍、1937年のパリ万博で金賞を受賞し、国際的な評価を確固たるものとしました。彼の作品は、動物をリアルかつ魅力的に捉えた彫刻で知られ、独自の釉薬の技術による温かみのある表現が特徴です。エスポー近代美術館での回顧展では、彼の晩年の抽象的な作品が新たに評価され、その独創性と芸術性が再認識されました。

現代の再評価と抽象的な可愛さの価値

シルキンは、クマ、ネコ、鳥、猿など多彩な動物をモチーフに選びましたが、単に姿を模倣するだけでなく、動物が持つ特徴を誇張しながらユーモラスに表現しました。例えば、クマの像では丸みを強調し、あどけない表情を与えることで親しみやすさを引き出し、ネコの像には、その気まぐれで高貴な性格を表現する曲線が取り入れられています。しかし、当時は「芸術的に軽すぎる」という批判も受けました。

EMMA(エスポー近代美術館)での展示を通じ、シルキンの作品は再評価されています。彼の後期の抽象的で可愛らしい作品は、当時批判された「軽さ」が現代ではむしろ価値とみなされ、自由な造形美として評価が高まっています。これにより、具象表現の制約にとらわれない彼の作品は、今日の芸術基準において新たな注目を集めています​。

技法と釉薬の美学

シルキンの作品において、釉薬の使用は重要な要素です。このネコの彫刻では、青みがかったグレーの釉薬が柔らかく塗布され、焼成による自然な色のにじみが独特の美しさを生み出しています。しかし、この釉薬は非常に扱いが難しく、焼成中の割れによって多くの作品が破棄されました。またシルキンは自身が満足できない作品を容赦なく破棄するため、完成品は限られており、結果として作品の希少性が高まっています。

入手困難な理由

ミハエル・シルキンの作品は、制作当初から国内外で高い評価を受け、現在も入手が極めて困難です。ストックホルムの高級百貨店ノルディスカ・コンパニエット(NK)では特別展示が行われ、展示された傑作の多くは販売されることなく、同店のコレクションにそのまま加えられました。同様に、フィンランドやイタリアの美術館でも展覧会後に作品が買い取られ、そのまま収蔵品となった例が多く見られます。こうした経緯により、一般市場に流通する機会は非常に限られています。さらに、シルキンの作品は外交贈答品としても用いられ、ベルギー国王への贈呈をはじめ、国家間の重要な贈り物に選ばれたこともありました。このような複数の要因が重なり、シルキン作品の市場流通はきわめて少なく、その希少価値を一層高めています。

抽象表現と制作数の少なさ

特にキャリア末期の作品(EMMAの展示で評価が高まっている物)は、シルキンが抽象表現を試みた数少ない作品群に属します。1950年代以降のこれらの作品は、制作数が限られていたことから、現在の市場でさらに希少価値を持っています。このような背景が、彼の作品の価値を一層高め、コレクターや美術館の間での需要をさらに押し上げています

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