Rut Bryk “äpple”
¥2,100,000
フィンランドを代表する陶芸家、ルート・ブリュック(1916–1999)は、幾何学的な構成や鮮やかな色使いで北欧デザインの発展に大きく貢献しました。本作品は、1958年にドイツのローゼンタール製陶所から依頼を受け、大型陶板作品《宴のテーブル》に取り入れた「皿」のモチーフをもとにしています。
従来の「皿」シリーズを土台にしながら、ブリュックは本作で釉薬(ゆうやく)をより明るくし、装飾をいっそう華やかに施しました。これにより、これまでの作品とは違う、軽やかで明るい雰囲気が生まれています。中央には果実が描かれ、周囲には花や鳥など遊び心あふれる意匠が散りばめられ、全体に鮮やかな印象を与えます。それまでの陶板作品にわずかに感じられた陰影はほとんど消え、より開放的な空気が全面に表れています。
この作品を最後に、ブリュックは幾何学模様を主題とする方向へ進むため、スリップウェアを用いた1950年代の陶板としては末期にあたる可能性があります。さらに、1960年に制作された大型陶板作品《アダムとイブ》の一部にも同じ釉薬が使われていることが確認されていますが、これほど装飾性を強調した「皿」形式の作品は他に例を見ず、当時のブリュックにとって実験的な挑戦でもあったと考えられます。彼女の創作意欲と新たな可能性を追求する姿勢が凝縮された、貴重な一作といえるでしょう。
ルートはそれぞれの作品に異なる釉薬や文様を施し、一つとして同じ作品を作らなかったため、こちらも唯一のものとなります。
ヒビや欠けもなく非常に良いコンディションです
1958-61
φ36cm
在庫1個
Rut Bryk(1916-1999)
ヘルシンキの中央芸術工芸学校で学んだ後、1940年代初頭からアラビア社アート部門で活動を始めました。版画の技法を応用した型の研究と釉薬による独自表現を確立し、1951年のミラノ・トリエンナーレでグランプリを受賞。国際的な注目を浴び、フィンランドを代表する陶芸作家のひとりとして知られるようになります。初期の具象的な陶板から、1960年代には無数のタイルを組み合わせた抽象的・立体的なモザイクへと移行。ヘルシンキ市庁舎やフィンランド銀行、大統領私邸に設置された大作は、迫力あるスケールと色彩表現で高い評価を得ました。版画の鋭い構成力や釉薬の奥行きを活かす作風は、北欧デザインに新風を吹き込み、陶芸の可能性を広げる礎となっています。