Stig Lindberg Bowl
¥120,000
黒釉の奥に淡く広がる赤褐色の揺らぎが、静かに光を吸い込みながら浮かび上がります。花や文様を思わせる線刻は絵付けではなく、焼成の過程で釉薬が変化しながら現れたもの。明瞭さよりも滲むような陰影を重んじ、器そのものに深い呼吸を与えています。
内側にはほとんど装飾を持たず、底に向かって黒が濃さを増していく。その対比が器の丸みを際立たせ、覗き込むと闇の中にかすかな光が宿るように見えます。表情は抑制されていますが、時間をかけて眺めるほどに質感の奥行きが染み込んできます。
スティグ・リンドベリの名はしばしば明るく軽快な作品と結びつけられます。しかしこのボウルのように、釉薬の陰影と抽象的な文様で静けさを描き出す感性こそ、彼の創作を美術の領域にまで押し上げた要因といえるでしょう。
派手さはありません。それでも視線を外すことができないのは、素材と火の作用を徹底して見つめた陶芸家としての確かな眼差しがあるからです。生活の器のかたちを保ちながら、同時にアート作品としての輝きを持つ稀有な一点です。
ヒビや欠けもなく良好なコンディションです。
φ21.5 H11.5(cm)
在庫1個
Stig Lindberg(1916-1982)
ストックホルムのKONSTFACK(現在の国立芸術工芸デザイン大学)を卒業後、1937年にGUSTAVSBERGの アートディレクターWILHELM KAGE(ウィルヘルム・コーゲ)に並外れた才能を見抜かれアシスタントとしてその輝かしいキャリアをスタート、1949年にWILHELM KAGEの後任アートディレクターとなり1980年まで所属。活躍の場は陶芸だけにとどまることなくテキスタイルや絵本のイラスト、トランプ、プラスティック製品、そして日本においては西武百貨店の包装紙をデザイン、1957年から1972年までは母校であるKONSTFACKの主任講師として指導にあたる等、幅広い分野で溢れんばかりの才能を発揮しました。独創的で遊び心溢れるデザインは現在もなお人々を魅了しています。