Tapio Wirkkala “Suokurppa”
¥550,000
自然から感じ取った美しさを、素材を通じてかたちにする──
北欧アートが近年あらためて注目されているのは、まさにこうした静かな感性に、人々が惹かれているからだと思います。
その魅力をもっとも端的に伝えてくれる一作として、この作品を選びました。
自然のかたちを削ぎ落とす
《バード(Suokurppa)》TW 513は、フィンランドを代表するデザイナー、タピオ・ヴィルカラ(1915–1985)が1975年に手がけた金属彫刻作品です。作品名の「Suokurppa(スオクルッパ)」は、フィンランド語で「湿原のシギ」を意味し、その細く滑らかな体躯は、北方の自然と静けさを映すかのように抽象化されています。
全長わずか10cmほどの小さなペーパーウェイトでありながら、本作はヴィルカラの自然観察、造形力、素材への深い理解が凝縮された一作です。機能性のためのデザインではなく、自然を削ぎ落とした形そのものに意味を持たせたこの作品は、彫刻としての強い存在感を備えています。
芸術的プロダクトとしてのTW 513
素材にはブロンズが用いられ、表面は高い技術で鏡面状に磨き上げられています。製造はフィンランドの金工メーカーKultakeskus Oyによって行われ、底面には「Kultakeskus Oy」「Tapio Wirkkala」の刻印が確認されます。
モデル番号TW 513として知られるこの作品は、量産品として設計されてはいたものの、実際にはKultakeskus社により注文に応じて少数のみ生産されたにとどまり、市場流通は極めて限定的でした。したがって、本作はプロダクトデザインとアートピースの中間に位置づけられる、きわめて特異な存在です。
美術館が示す位置づけ
本作はフィンランド国内外の美術館でも高く評価されており、ヴィルカラの造形的関心を語る上で欠かせない作品とされています。
デザインミュージアム(ヘルシンキ)では、ヴィルカラ生誕100年を記念した展覧会「Wirkkala Revisited」にて展示され、またエスポー現代美術館(EMMA)のコレクションにも所蔵されています。いずれの美術館においても、本作は「自然と彫刻の間に立つ存在」として紹介され、ヴィルカラの表現が単なるプロダクトデザインの領域にとどまらないことを物語っています。
EMMAの学芸員は、彼の創作について「素材、形、自然、そして手の動きが一体となった結果」と述べており、まさに《バード(Suokurppa)》はその象徴として扱われています。滑らかに削り出されたフォルムの中に、観察と構想、技術と詩情が共存しています。
キャリア後期に生まれた「形」
ヴィルカラはキャリアの後半、フィンランド北部ラップランドの自然から着想を得た自由な造形に力を注いでいました。《Suokurppa》もその延長線上にあり、彼が晩年に取り組んだ「素材と自然との対話」から生まれた作品です。
彫刻家としての出発点に立ち返りながら、工業デザイナーとしての経験が込められたこの作品は、ヴィルカラにとって一つの集大成でもあります。彼自身、「最もシンプルな形こそが、最も困難な挑戦だ」と語っており、過剰な装飾を排した本作は、その思想を静かに体現しています。
デザインを超える造形
《バード(Suokurppa)》TW 513は、プロダクトでありながら彫刻であり、彫刻でありながらプロダクトの枠を意識的に逸脱した存在です。デザインとアート、そのどちらの文脈においても語ることができる稀有な作品であり、ヴィルカラの探究心と審美眼の結晶といえるでしょう。
本作は、単なる鳥の形ではなく、素材と対話し、かたちの本質に迫ろうとしたヴィルカラの思索の痕跡です。
ブロンズ(鏡面仕上げ)/約105mm/Kultakeskus Oy(フィンランド)製作
希少なオリジナルの箱も付属します。ダメージもなく良いコンディションです。
1975
在庫1個
SKU: 20250412a1 カテゴリー: 未分類, Tapio Wirkkala タグ: art
Tapio Wirkkala(1915–1985)
ガラス、銀、木、紙、空間まで、あらゆる素材と対話しながら形をつくり出したフィンランドの巨匠タピオ・ヴィルカラ。自然のかたちや気配から着想を得て、繊細さと力強さをあわせ持つフォルムを生み出しました。1940年代後半から国際的な評価を受け、イッタラのガラスデザインやフィンエアのビジュアルなどでも知られます。道具、彫刻、風景──すべてに境界を設けず、静けさの中に詩のような造形を追い求めた表現者です。