哲学のための創造
CREATION FOR PHILOSOPHY
国王でさえ購入を拒まれたという逸話は、彼の芸術が市場ではなく、自身の内なる対話のために存在したことを示しています。心に適った作品は窯に錠をかけ、買い手の目から隠し、その哲学を守り抜いたのです 。
HÖGANÄS,
SINCE 1928
聖域/SANCTUARY
オーケ・ホルム(Åke Holm)が、時に国王からの購入依頼さえ断ったという逸話は、彼の芸術家としての姿勢を何よりも雄弁に物語ります。それは、創作という神聖な時間を誰にも邪魔されたくないという、純粋で烈しい情熱の表れでした。制作の邪魔をされないように、工房の扉に「Stängt för i år(今年は閉店しました)」という札を掛けることは、日常茶飯事だったと伝えられています。
Höganäs(ヘーガネス)のSandflygsgatan(サンドフリグスガータン)にあった彼の工房は、単なる仕事場ではなく、一種の聖域でした。窯から出したばかりの作品の中でも、特に心に適ったものは誰にも見せず、時には窯に鎖と南京錠をかけてまで、性急な買い手から守ったといいます 。彼にとって作品は、完成した瞬間から商品になるのではなく、まずは自身がじっくりと対話し、その存在を確かめるべきものだったのです。
「良き陶芸家になるには、多くの人生を要する」と語ったとされるホルム 。その孤高の姿勢の裏には、ユーモアと音楽を愛する人間的な温かさも共存していました 。彼の作品に触れることは、この妥協なき芸術家の魂が、土という永遠の素材と交わした静かで濃密な対話の軌跡を辿ることなのです。
紙の上のフォルム
FORMS ON PAPER
Åke Holm “Litografi 76”
¥32,000Åke Holm “Litografi 71”
¥32,000Åke Holm “Litografi 70”
¥32,000Åke Holm “Litografi 69”
¥32,000Åke Holm “Litografi “
¥34,000Åke Holm “Litografi “
¥34,000Åke Holm “Litografi 68”
¥32,000土の奥の物語
オーケ・ホルムの作品を読み解く鍵は、土の奥に息づく彼自身の物語にあります。
- 職人から芸術家へ、独立への道オーケ・ホルムは1900年、陶芸の町ヘガネス(Höganäs)に生まれました。14歳で工場に入った彼にとって、粘土と炎は日常そのものでした。転機は1928年、勤めていた美術陶器部門が閉鎖されたこと。彼は安定した職を捨て、前例のない独立の道を選びます。もし工場が閉鎖されなければ、彼は偉大な芸術家になることなく、一人の職人として働き続けていたかもしれません。この決断から、51年にわたる孤高の創作活動が始まったのです。
- 土のままの物語1930年代、独立したホルムは聖書の物語を、素焼きの粘土(テラコッタ)で表現し始めました。それらは古典的な美しさとは無縁の、大胆なユーモアと民衆的な魅力に溢れたフィギュア群です。当初は売り物としてではなく、素材と戯れるように、生まれながらの語り部として粘土で物語を紡いだのです。「醜いものは、美しいものよりも個性的だ」と語った彼の哲学が、これらの作品に生命を吹き込んでいます。
- 土の寓話、動物たちの個性ホルムの動物たちは、単なる写実的な模倣ではありません。彼は「あえて自然を研究することはしない」と語り、例えば雄鶏を作る際には、その姿形よりも「雄鶏の傲慢さ」という概念そのものを捉えようとしました。そのため、彼の動物たちはそれぞれが強い個性を持ち、まるで寓話の登場人物のようです。落ち着いた炻器の色調が、それぞれの生き物に最もふさわしい肌理と生命感を与えています。
- 壁に掛ける物語、粘土の絵画ホルムにとって陶板やレリーフは、彫刻と素描への関心を結びつける格好の表現でした。当時、陶製のレリーフは絵画に代わる比較的手頃な芸術品と見なされており、壁に物語を飾りたいと願う人々のために、彼は粘土で絵画を描いたのです。そのインスピレーションは聖書だけでなく、膨大な美術書コレクションにあった古代ギリシャやローマ建築のフリーズ(帯状の彫刻)にもありました。
- 石膏の丘から生まれる大皿ろくろをあまり好まなかったホルムは、彼を象徴する大皿を独自の方法で生み出しました。それは、タタラ作りした大きな粘土の板を、ドーム状の「石膏の丘」にかぶせて成形するという手法です。これにより、正円ではない、生命感のある歪みを持ったフォルムが可能になりました。装飾は、乾いた粘土の上に、水分をたっぷり含んだ筆で大胆に描かれました 。そのモダンな作風には、南仏で陶芸に打ち込んだピカソからの影響も見て取れます。一枚一枚が、彼の絵画的な才能と造形感覚が凝縮された、唯一無二の作品なのです。
- 紙の上の魂、もうひとつの聖書粘土の彫刻家として知られますが、その創作意欲は紙の上にも注がれました。1966年、彼は愛するヘガネス博物館の増築資金を集めるため、版画制作を始めます。これは驚異的な成功を収め、15年間で実に275種類ものモチーフが生まれました。彼にとって「趣味」であったこの分野にも、聖書の世界がより自由な解釈で生き生きと描かれています。