それは作品が生まれる場所

家族が集う空間は、そのまま創作の場でもありました。リサは子どもを預けず、自宅で育てながら制作を続けていたといいます。母は静かに粘土をこね、夫グンナルは風景を描く。その傍らで子どもたちは絵を描いて遊ぶ──。ものをつくることが、日々の暮らしと地続きだった時間。
今回ご紹介するのは、そんな日々のなかから自然に生まれてきた作品たちです。

リサとその家族

夫グンナル・ラーソンはスウェーデンを代表する画家のひとり。子どもたちもそれぞれ、アーティストやグラフィックデザイナーとして成長していきました娘ヨハンナは、大人になってからも創作に関わり続け、母の作品に新たなかたちで向き合うようになっていきました。子ども時代に見ていた“粘土の猫”が、やがて別のかたちで再解釈され、再び世に送り出される──家族の記憶が、静かにめぐっていくような出来事です。

絵が陶板になるとき

娘が母の作品に新たなかたちで向き合うようになる何十年も前──
リサはまだ幼かったヨハンナの描いた絵を、ひとつの陶板作品に仕上げていました。

まだ2歳だったヨハンナが、夢中で紙に向かっていた時間。遊びの中で生まれた線や色に、リサはそっと目をとめました。その絵が、陶板というかたちになって残されたのです。

線からひろがる、ひとつの世界

2歳のヨハンナが描いたのは、まるい顔とお花、そして飾りのような模様が散りばめられた可愛らしい絵でした。リサはその線を読み取り、粘土で立体を起こしていきます。絵の表層だけではなく、そこに秘められた世界までかたちにしようとするように──。
子どもの描いた線から、ひとつの世界を受けとめ、そっとかたちにしたような陶板です。

Väggplatta 1962

efter en teckning av johanna, två år
作品集から "リサの娘ヨハンナ(2歳)の絵より"

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Johanna ― 娘の名を冠したフィギュア

リサが娘の絵をもとに陶板を制作した1961年、その同じ年に、量産品のUngar子どもシリーズが発表されました。なかでも“Johanna(ヨハンナ)”と名づけられたフィギュアは、当時2歳だった娘の姿をそのままかたちにしたもの。丸みを帯びたフォルムと穏やかな表情が印象的で、家族を見つめるまなざしのようなやさしさが宿っています。リサ自身の暮らしから生まれたこの小さな像は、やがて彼女の代表作のひとつとして、長く親しまれる存在となりました。

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Gunnar Larson ― 家族で見た風景

粘土に向かうリサの隣で、風景を描いていたグンナル。スウェーデン南部、スコーネのひらけた大地は、家族とともに夏を過ごした思い出の場所でした。グンナルはこの地に魅せられ、生涯を通じてスコーネの風景を描き続けました。

ある夏の日には、息子のマティアスとともに絵の具を持って出かけ、並んで空と光の移ろいを描いたといいます。大きな空の明るさ、影の色の深さ、雲が変える季節の風。そのひとつひとつを、グンナルは静かに画面に写し取っていきました。

描かれた風景のなかには、自然の光だけでなく、家族と過ごした時間もまた、そっと滲んでいます。

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家というアトリエ

静かな空間。粘土をこねるリサ、風景を描くグンナル、紙に夢中になる子どもたち。その空間から、陶板が生まれ、フィギュアがかたちづくられ、絵が描かれていきました。今回ご紹介した作品たちは、そうした日々の中から自然に生まれたものばかりです。家族という場が、創作のはじまりであったことを、あらためて感じさせてくれます。

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※本ページは、Munstylistが独自に企画・編集した特集ページであり、作家ご本人やライセンス管理会社による監修・公式発信ではありません。
本ページで使用している一部の画像は、以下の資料を出典としています:
Gustavsbergs Porslinsmuseum 編『LISA LARSON』(2010年、Bokförlaget Arena)
Photo: Gustavsbergs Porslinsmuseum / © respective photographers