Sylvia Leuchovius《陶板作品》
── 粒状の装飾で形作られた鳥の姿が、黒釉の背景に鮮やかに浮かび上がります。柔らかさよりも緊張感を帯びた造形は、可愛らしさを前面に出す後年の作風とは異なり、レウショヴィウス初期の表現の芯を物語る作品です。
1. 静けさのなかに浮かぶ鳥
黒釉の静寂を背景に、一羽の鳥が浮かび上がります。密集した粒状の装飾が微かな起伏を生み、画面に質感と存在感を与えています。装飾的でありながら甘さを抑えた表現は、初期のレウショヴィウスらしい控えめな強さと、どこか思索的な静けさを湛えた佇まいです。可愛らしさよりも形に込められた重さが印象に残る、彼女の初期作の中でも特に象徴的な一枚といえるでしょう。
2. 釉薬の下に生まれる輪郭
鳥の姿は線で描かれているのではなく、釉薬の下に沈む無数の粒で構成されています。光の角度によって浮かび上がるそれらは、図像というよりも触覚に近い感覚で視線を捉えます。粒子のひとつひとつが釉によってわずかに丸みを帯び、見る者のまなざしに応じて表情を変えてゆきます。凹凸と陰影の組み合わせが、この作品を単なる装飾に留めず、静かな奥行きを与えているのです。
3. 描くのではなく置くという手つき
この作品の印象を決定づけるのは、粘土を一粒ずつ「置く」というレウショヴィウス独自の手法です。加えることで造形される鳥の姿は、描線ではなく構造として画面に立ち上がります。平面でありながら彫刻的であり、作業の痕跡そのものが意匠となって残されています。その手つきには、描くことでは到達できない密度と、時間の堆積のようなものが静かに宿っています。
4. 初期作にみる確かな輪郭
1950年代、北欧陶芸がモダニズムの流れに傾いていた時代に、レウショヴィウスは装飾という行為の深みに向き合っていました。量産や図案化を避け、形と質感そのものに語らせる姿勢は、当時の中でも異質であり、だからこそ今日においても鮮度を保っています。可愛らしさを前面に押し出した後年の作風とは異なり、本作には構築性と抑制が共存しており、彼女の根底にある美意識が静かに浮かび上がっています。
Designer | Sylvia Leuchovius |
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コンディション | Excellent |
サイン・背面情報 | 手描きサインあり |
サイズ | 26×29.5×3(cm) |
Sylvia Leuchovius (1915–2003)
土と釉薬を用いて「夢見るような世界」を表現した、スウェーデンを代表する陶芸家です。量産品の潮流とは異なる道を歩み、手仕事による一点制作にこだわり続けました。小さな粘土粒や花弁を貼り重ねる繊細なレリーフ技法と、透明感ある色彩が特徴です。その作品は「土と色彩による詩」と評され、今も静かな人気を集めています。
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