Sylvia Leuchovius《陶板作品》
── 焼成によって浮かび上がる灰青のにじみと、細やかな点描が調和する一枚。作家自身が家族に贈った特別な作品であり、試作品としてのみ残された、静かな希少性を湛えた一点です。
1. 焼き物だけが描ける色 ― 深い青の揺らぎ
最初に目に飛び込んでくるのは、釉薬によって生まれた深く豊かな青。青から紫へ、さらに墨色を帯びるように、見る角度や光によってその色はわずかに変化します。これは絵の具では決して再現できない色。描かれるのではなく、焼かれて生まれる──それはまさに陶という素材がもたらす、唯一無二の表情です。
2. 線ではなく、面として立ち上がる花のかたち
この作品における花は、線で描かれたものではありません。わずかにふくらんだ面がやわらかく立ち上がり、静かに輪郭をかたちづくっています。その中心には、小さな粒が一つひとつ貼り重ねられ、まるで筆ではなく、指先で粘土を置いていくように構成されています。そこには、描写ではなく手の動きそのものが刻まれています。
3. 「粒の装飾」というレウショヴィウスの語法
この粒状の装飾は、レウショヴィウスが繰り返し用いてきた表現のひとつです。鳥の羽根や果実、そして花の芯──どの作品にも、描くのではなく“構成する”という彼女独自の美意識が見られます。これらの粒は光によって陰影を変えながら浮かび上がり、見る者の視線だけでなく、指先の記憶にも触れてきます。
4. 見るというより「触れる」ための造形
この作品における「見る」という行為は、視覚だけにとどまりません。触れるように感じる質感、あるいは近づいて確かめたくなるような光と陰影のたまり。粒の集合が生み出す微細な起伏が、陶という素材の手応えをそのまま伝えてくるのです。そこには、レウショヴィウスらしい抑制された意志と感覚の導きがあります。
5. 土と釉薬に語らせる ― 描かれたのではない花
この作品の花は、単なるモチーフではなく、土と釉薬の力で語られた存在です。絵のように描かれたものではなく、陶という素材を通して描き上げられた花。釉薬による光のたまり、焼成による色の深み、そして立体として触れられる輪郭──そのすべてが一体となり、陶芸ならではの美を成り立たせています。
6. 距離と感覚に訴える、静かな構成
この作品は、見る者の距離感と感覚に静かに働きかけてきます。釉薬の揺らぎが生む色彩の変化と、指で置かれた粒の重なりがもたらす立体感。まさに、陶でしか描けなかった花。それは静かに、けれど確かに、私たちの内側にある触覚的な記憶を呼び起こすような存在です。
Designer | Sylvia Leuchovius |
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サイズ | 18×18 D2 (cm) |
コンディション | Excellent |
サイン・背面情報 | 手描きサインあり |
Sylvia Leuchovius (1915–2003)
土と釉薬を用いて「夢見るような世界」を表現した、スウェーデンを代表する陶芸家です。量産品の潮流とは異なる道を歩み、手仕事による一点制作にこだわり続けました。小さな粘土粒や花弁を貼り重ねる繊細なレリーフ技法と、透明感ある色彩が特徴です。その作品は「土と色彩による詩」と評され、今も静かな人気を集めています。
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