“一点物の仕事は、いつも私の息抜きでした。量産の決まりごとを離れて、そのときの気分で好きなように作ることができたのです。
Lisa Larson、Gisela Eronn『Bland lejon och änglar』
猫、ライオン、ハリネズミ。日本でよく知られているリサ・ラーソンは、その一面です。彼女は1954年から1980年まで、グスタフスベリの工房で、売れていく量産品のかたわらで一点物のアート作品を作り続けました。
当店が集めているのは、そちらのリサです。
二十世紀のなかば、北欧の大きな窯は、それぞれアーティストを抱えていました。フィンランドのアラビアは1932年にアート部門を作りました。スウェーデンのロールストランドは1931年に陶芸家ニールンドを芸術監督に迎え、グスタフスベリは1942年、芸術監督コーゲがアーティストのための工房を作りました。
意外に思われるかもしれませんが、当時の窯を支えていたのは食器ではなく、トイレや洗面台の陶器でした。食器は儲かりにくく、それでも窯は、食器がもっと売れる窯になりたい。そのためには、選ばれる名前、いまで言うブランド力が要りました。
その名前を作るのが、アーティストの仕事でした。学校や病院の壁に大きな陶のレリーフを作り、百貨店の展示に一点物を並べ、家の壁に陶板を掛ける。町のあちこちでアーティストの作品を目にするうちに、窯の名前が上がり、食器が売れるようになる、という仕組みでした。
リサ・ラーソンは1954年、23歳でグスタフスベリの工房に入りました。芸術監督のスティグ・リンドベリが、学校のコンクールで彼女の作品を見て誘ったのです。
入ってすぐに作った動物のフィギュアがたちまち人気になり、子どものフィギュアや、可愛い絵の花瓶や灰皿と、その後の作品も売れ続けました。数年のうちに、クロスワードのヒントになるほど誰もが知る名前になり、スウェーデンの家庭のどこにでも、彼女のフィギュアがある状態になります。
ただ、それは批評家の評価にはつながりませんでした。当時のスウェーデンの工芸界が高く見ていたのは、同じ工房のフリーベリの器のような、薄く、均整の取れた、洗練されたものです。百貨店で誰でも買える小さな動物は、商品であって、作品ではありませんでした。
1962年、リサがストックホルムで初めての個展を開いたときも、批評家は動物のフィギュアやブックエンドを笑いものにしています。アーティストではなく、売れるものを作る人。フィギュアへのその見方は、最後まで覆りませんでした。
ところが批評家は、同じ展示の中に、別のものも見ていました。フィギュアを笑った1962年の個展で、批評家が「素朴な力強さ」「今日のスウェーデン陶芸の白眉」と書いたのは、リサが工房で作っていた一点物のほうです。彼女をアーティストとして認めさせたのは、量産品ではなく、この一点物でした。
一点物は、型を使いません。壺なら、工房の轆轤の名手が挽いた大きな壺に、リサが自分で線を掻き、太い筆で色を置く。像や鳥なら、轆轤で挽いた球のような胴に小さな頭を載せたり、薄くのばした土を切って、折って、組み立てたりして、一つずつ手で起こします。
仕上げも、決まりごとがありません。顔と手は土のまま残し、服にだけ釉をかける。型で抜いた量産品と並べると、厚みが違い、指の跡がそのまま残っています。
フリーベリが薄さと均整を極めていた工房で、彼女は厚く、粗く、迷いのない形を作りました。批評家が「力強さ」と呼んだのはこれで、量産品の動物と同じ手から出たとは思えないほどです。陶板にも、同じ力があります。
その力は、制約がないところから来ています。量産品には、守らなければならないことがあります。まず売れること。それは石膏の型で抜ける形で、窯の中で壊れず、値段に収まること。フィギュアの丸くて簡潔な形は、可愛さのためだけでなく、この制約の中で生まれた形でもあります。
一点物には、その制約がありません。売れなくていい。型で抜けなくていい。だから、厚くも、粗くも、思い切れます。
“グスタフスベリの良いところは、製品のほかに、自分のユニークピースをたくさん作らせてくれたことです。技術や生産性、売れ行きと関係のないところで作れたことは、作り手にとって、とてもよい刺激でした。
Lisa Larson、IDÉE LIFECYCLING のインタビュー
彼女自身は、一点物を「息抜き」と呼びました。売れなければならない量産という重しが反対側にあったからこそ、一点物で思い切れた。その喜びは、量産がなければ知らなかっただろう、とも言っています。
当店がグスタフスベリ時代のリサを集めている理由は、当時の批評家が一点物を高く評価した理由と同じです。厚く、粗く、力がある。そして、それを生み出せたのは、この工房と、この時代だけでした。
工房では、一つの作品に何人もの手が入っていました。リサが土で原型を作ると、原型師が石膏に起こし、型職人が型を作り、研究室が釉薬を調合し、絵付け師が色を置く。一点物でも壺は轆轤の名手が挽き、リサがそこに装飾をするので、作家の手と職人の腕が一つのものに同時に入っています。
リサは1980年に工房を離れ、1992年からは仲間と十人ほどの小さな工房を作って、猫やライオンを作り続けました。分かれていた仕事を一人か二人が受け持つ作り方で、土も変わりました。当店が扱うのはグスタフスベリ時代のものが中心で、後年の一点物は、この時代のエッセンスが強く残っているものを選んでいます。
キャラクターや量産品だけが、リサの魅力ではありません。一点物にも、動物たちと同じやさしさとユーモアがあり、そのうえで批評家を唸らせる力がある。それなのにリサのアート作品は、当時と同じように、いまもあまり知られていないままです。
見直しは始まっています。ストックホルムの国立美術館は2020年に、一点物から量産へという工房の流れを主題にした回顧展を開き、2023年にはスウェーデンの美術館 Vandalorum の回顧展が、館でいちばん人の入った展示になりました。当店は、アーティストとしてのリサの魅力を、ユニークピースから伝えたいと思っています。
当店の作品は、美術館の展覧会や図録への貸し出しにも応じています。
Lisa Larson
一点物
作品一覧|Unique Pieces
在庫あり 153点
Lisa Larson
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量産品が生まれる前の時間
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特集|Atelier
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Lisa Larson
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作品一覧|All works
公開 751点