1930–2023 全25点
アプリコットの鉢(部分)/炻器/径 12.5cm
やわらかい色、やわらかい線
杏、橙、バターイエロー、くすんだ青。彼女の器は、果物のような色をしています。その色を引き立てているのが、ぼてっとした、ふくらんだ形です。色と形が合わさって、彼女の器はやわらかく見えます。
壺形5点、ボウル4点、食卓の器13点、陶板3点。炻器と磁器。
Vivi Calissendorff(1930–2023)はヘルシンキに生まれ、ストックホルムの Konstfack とロンドンの The Central School of Arts & Crafts で学びました。1960年からストックホルム郊外の Täby に住み、自宅に工房と窯を構えて、器も壁の作品も半世紀以上つくり続けました。グスタフスベリやロールストランドのような大きな窯に所属した記録はありません。
バターイエローの大鉢の内側には、黄土色の細かな斑が散り、青緑の筋が二、三本差しています。アプリコットの小鉢は、中心の濃い溜まりから口へ向かって、絵筆で掃いたように色が流れる。青い鉢は、濃い青の粒が一面に詰まって、口のふちだけが白く泡立っています。
三つとも、遠目には一色に見えます。近づくと、一色ではない。粒があり、むらがあり、流れがあって、色と色のあいだに境目がありません。
淡い色は、平坦に塗ったような、ファンシーな一色になりがちです。彼女の色はそうなりません。粒とむらがあるから、淡くても甘くならない。
果物に似ているのは、色の選び方だけではありません。小鉢は外側が淡く、内側の中心がいちばん濃い。淡い皮に、濃い果肉です。鉢を三つ並べると果物かごのように見えるのは、そのためです。
底には釉をかけず、真っ白な素地のままにしています。この真っ白な底が加わることで、青い小壺は、小さな器なのに華やかに見えます。
大鉢の口のふちを見ると、色は上へ行くほど薄くなり、ふちで白い一本の線になって抜けています。ふちに濃い色を置いて形を締める、器の常套をやっていない。だから大きな鉢なのに、置いた場所に溶け込みます。
壺は、形がやわらかい。ろくろの器はふつう、肩のいちばん張ったところで形が締まりますが、彼女の壺にはそれがない。口は小さく、いちばん太いところが下のほうにあって、ぼてっとしています。
少し傾いで、少しつぶれて、どこか間が抜けている。整っていないものの可愛さです。青い壺を大小二つ並べると、その間の抜けた感じが際立って、可愛さが増します。
陶板でも、やっていることは同じです。黄色の板に白い角板が重なり、六つの斑が置かれている。斑は灰緑の粒が青緑の環に囲まれ、外へ橙が滲む。境目がなく、溶けていく。壺や鉢と同じ色の付き方です。
形もゆるい。板の縁は定規で切ったようになっていないし、上に載る面は少し傾いでいます。1983年の陶板の白い二つの面はふっくらとして、土の色の地にそのまま載っている。形だけの板なのに、硬くなりません。
そして、やわらかく見える理由は、色と形だけではないと思います。ユーモアと、自由な精神が生み出す軽やかさです。1992年の陶板には、ふくらんだりんごが二つ、そのまま載っています。なぜわざわざ、りんごを板に貼りつけるのか。
“私の最初の、本当のりんごの絵。
陶板 裏面の書き込み、1992年
裏に、そう書かれています。陶芸家としてりんごを描くなら、この形こそが自然だと思ったのかもしれません。自分の感性にとても素直で、自由です。
そう思って見ると、こちらの想像も動きます。裏の題は《Äpplen på glid》、滑っていくりんご。板が木で、そこからりんごが落ちていくところなのだろうか、とか。とはいえ彼女は、陶板の題は制作中の作業名にすぎないことがある、と言っています。正解があるわけではなく、感じるままに解釈すればいい。
“観る人が、自分だけの何かをそこに見たり感じたりしてくれたら、と願っている。
Vivi Calissendorff、2015年 個展《La Finale》に寄せた文章
彼女も、そう願っているのですから。
全25点。壺形5点、ボウル4点、食卓の器13点、陶板3点。すべて炻器または磁器です。
淡い釉は、壺形、ボウル、陶板に集まっています。バターイエロー、ダスティブルー、アプリコット、オフホワイト。半世紀前の器なのに、いま見るほうがモダンに見えます。
食卓の器13点だけは、逆をやっています。白い斑の釉に鉄の褐色が斜めに入り、ふちと脚を濃い色で描いている。食器はふつう主張しないように作られますが、この一群は何を注いでも器のほうが主張します。何でも試す人だから、逆もやる。カラフェを中心に、ゴブレットは一つずつ褐色の入り方が違います。
陶板2点の裏に、Måsvägen 2, 183 51 Täby の工房ラベルが残っています(屋号 VIVIS KERAMIK 入りと、Sweden 表記入りの2種)。1992年の陶板にラベルはなく、題と釉の番号「10B」が手書きされています。器の底や裏面の署名は、Vivi、Vivi C-ff、Vivi Calissendorff。